7月のある日の感想

すべてはオタクの妄想

いまさら『Fate / stay night』を(Unlimited Blade Works編)

前記事に引き続きPC版『Fate / stay night』の感想になります

今回はUnlimited Blade Worksルート(凛ルート)について

Fateルートの最後にタイガー道場行きになったため, 新しく現れる選択肢による分岐だという事は把握していたのですが, スキップ機能で突然「止める 止めない」が出てきたときは????ってなりました...

「何を」かは分からないけどとりあえず止めておくか, ということで無事にUBWルートに分岐 セイバールートでは士郎の家に居候することになった凛ですが, 逆に凛ルートでは士郎と距離感があるところからスタートするのが, 凛と士郎の関係らしくていいですね

今ルートでも士郎の「正義の味方になりたい」という願いを軸に物語が展開していくので, そこを中心に感想を書いていきたいと思います

 

fate/stay night メニュー画面

©TYPE-MOON

 

 Yet, those hands will never hold anything.

 故に、その生涯に意味はなく――

 

直訳だと, 「しかし、その手は何もつかめない」といったところでしょうか...

この詩のような詠唱呪文, 物語の1番最初に現れるのでFateルートをやっているときはすっかりアーサー王の人生を表したものだと思い込んでいました 多分ミスリードを誘っているのだと思うのですがどうなのでしょう 

あるいは遠い昔, セイバーとともに戦い彼女の過去を見たことが, アーチャーの心象風景に影響しているということもあるのかもしれません

 

アーチャーの過去の多くは凛を通して語られているわけですが, その中で凛は

行為はくるっと循環するからこそ元気が戻ってきて、次の活力が生み出されるのだ。

それが無いという事は、補充が無いという事だ。

たとえば自分のためではなく、誰かの為だけに生きてきたヤツなんて、すぐ力尽きるに決まっている。

 と言っていますが, これは結構鋭いことを指摘していると感じました 他人の為に行動すると言っても, たいていの場合はその見返りに何かを期待しているものです なにも金や者, 地位だけではなくて, 愛情であったり, 感謝の言葉であったりもそこに含まれています 

でも, それは決して悪いことではない むしろ見返りを与えられなければ, どこかで心が折れてしまう  人助けはあくまで自己実現の手段であるべきだ, とも言えそうです

 

そこでアーチャーのことを考えると, 彼の夢は 誰も傷つかない世界 ただ1つでした そして, そこには自分が何を得たいのかという理想の自分の姿は入っていなかった

さすれば彼が活力を得られるの方法はただ一つ, 誰も傷つかない世界の実現しかありません しかし, 作中何度も繰り返されるように, そんな世界は絶対にやってこない 誰かを助ければ誰かが傷つく 結局走り続けた生涯の中で彼が望んだものはただの1度も得られなかった 何の意味もない生涯だった まさに "those hands will never hold anything"です

 

そして世界は非情なもので, 見返りを求めない者には見返りは与えられず, 返ってきたのは裏切りだった

Unknown to Death.

ただの一度も敗走はなく

Nor known to Life.

ただの一度も理解されない

 は直訳すれば, 「死からも生からも理解されない」となり, 自身のことを裏切り続けた世界への失望が表れています 見返りを求めていなかったはずの彼が, この表現を使うことに切なさを感じてしまいます

 

 

I have no regrets. This is the only path.

ならば、わが生涯に意味は要らず――

 

直訳ならば「後悔はない これは(理想への)道にすぎないのだから」

ギルガメッシュとの対戦時, 士郎の詠唱する無限の剣製の呪文は, 全体的に主体的な表現になっています

例えば, 上でアーチャーの場合を引用した部分については

Unaware of loss

ただ一度の敗走もなく

Nor aware of gain

ただ一度の勝利もなし

 直訳では「何を得て, 何を失ったという意識はない」となり, 何も得られなかったという意味では同じであるものの, それは第三者の視点ではなく自分自身の意識に変わっています

そのきっかけは, 「正義の味方になりたい」という理想が, 自分の中から生じたものではなく, 衛宮切嗣から受け継いだものだったと気付かされたこと アーチャーやギルガメッシュは, そのことをもって士郎の求めるものが偽善だと言いました 

しかし, 士郎はその借り物の理想がどれだけ美しく感じられたかということを思い出します 誰も傷つかない世界なんて, 現実にはあり得ない それを求めようとする限り, 現実は自分を裏切り続けることになる でも, だからこそ, 理想は本物の理想であり続ける

その生涯の意味は, 理想郷を手に入れることではなく, 理想郷を追い求めることそのものだ  

凛の言葉に当てはめるなら, 行為を続けることそれ自体が, 自身の行為の活力になるということができるでしょうか だから, 他者から理解されたり, 見返りを受けたり, あるいは理想が実現したりといったかたちでの補充が無くても力尽きずに動き続けることができる

それが士郎の内から生まれる固有結界, Unlimited Blade Worksの意味なのかもしれません

 

 自分だけでは持ち得なかった夢, 現実にはありえない理想, それを知ってなお追い求めるからこそ, その確実さを信じることができる, という考えは, このFateという作品が私たちに伝えてくれる強く生きるための方法なのだと感じました

 

 

そのほか....

 どのルートでもかっこいいアーチャーの生きざまが描かれたり, 士郎の届かぬ理想を追い続けるという決意がまさに「正義の味方」であったりして, 人気が高いのも頷けるルートでした 個人的にはイリヤとバーサーカーの絆の描写が3つの中でも一番好きで, これがあってこその桜ルートでのバーサーカーだなぁ... と思うなど

 それにしても, 前回も書きましたが士郎の心の強さはとても真似できませんね... その分, 慎二の人間らしさが出ていて, 「愛すべき悪」という感じがします